花霧妖夢01:プロローグ 扉 ―― 夢々妖郷
今は昔、そのまた昔、なおなお昔の事なれば。
偽と似非とが絡み合い、嘘と駄法螺が与太を切る。
真を求めて彷徨えど、迷って惑って酔うのみか。
長く鋭き日本号、三倍呑みの業物も、
夜の深さを測るには、どうも色々足り切れず。
童討ち退魔の日本刀、元祖の大江の安綱も、
枕の中味を披くには、罪冴えばかりで伽忘れ。
羽々切り欠けたる神剣も、叢薙ぎ火和ぎの白刃も、
霧裂き神咲く皆勝たも、征夷の大小・三剣も。
八雲の八重の咒い垣、越えるどころか近づけぬ。
此処は幻想。
其処は眩奏。
眩み奏でる裏京、森と社の遠宮古。
鬼も天狗も十把の極み。
神も悪魔も一絡げ。
共に遊べやいつまでも。
共に愛せよいつまでも。
『屍越えよと若親叫び、屍越えると赤子は誓う』――
――それも昔の事なれば。
――なおも昔の言なれば。
共に滅べやいつの日か。
共に渡れよいつの日か。
其処は到現。
此処は東幻。
到り現る真京極、人と妖……上都。
そう、【幻】想いの田舎郷。
却説。
一座が開くは、戯けの狂言。
想いを願えば夜ノ帳。
欲いを望めば朝ノ終。
丗界は今日も美しく、雪降り雪満ち雪吹雪く。
春花いまだ、開かれず。
冬の名残が、尚増して。
暗躍、跳躍、銀髪従者、走りて回りて時を駆る。
南無。
温度の取れぬ幽霊小噺、
音頭を取りしは藤の花――――
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